プロセッコが芽吹き始めた春の初めの一日、北イタリアヴェネト州の小さなワイナリー、VINI MENEGUZ SARA(ヴィーニ・メネグズ・サラ)を訪ねてみました。ワインと畑への愛があふれるオーナーのサラさんが、ワインの魅力と思い入れをたっぷり語ってくれました。
プロセッコの産地
ヴェネト州はイタリアNo.1のワイン生産地

実はヴェネト州は、ワイン大国イタリアの中でも最も年間のワイン生産量が多い地域なんです。
ヴェネト州で生産される有名なワインと言えばアマローネ、ソアーヴェ、そして食後酒のグラッパとバラエティ豊かですが、その中でも群を抜いて生産消費されているのが『プロセッコ』。
プロセッコは白ブドウのGlera(グレラ)という品種を使って作られるスパークリングワインで、年間生産量はなんと5億本を超えるという一番の主力商品!イタリアのどのエリアのどのバールでも必ず置いていて、アペリティーボ(食事の前の軽い一杯)の定番です。
DOCGのプロセッコ
プロセッコと名の付く商品のうち、2種がDOCG指定されていて、ひとつはAsolo-prosecco、そしてもうひとつがConegliano Valdobbiadene prosecco。
この二つ目のConegliano Valdobbiadene proseccoが生産されるのはヴェネツィアから北に約50Kmほどの場所にあり、15の市区町村からなる地域。2019年にはユネスコ世界遺産にも指定されました。
この地域では3世紀以上に渡ってブドウ栽培の歴史があり、1876年にはイタリアで最初の醸造学校が作られたそうです。
ここではDOCGのプロセッコを生産するためにはグレラ品種を85%以上使うことが必要で、それに地ブドウのヴェルディーゾ、ビアンケッタ、ペレラ、グレラ・ルンガまたは国際品種のピノ、シャルドネを使うことができます。

今回お邪魔したワイナリーはこの2番目のDOCGエリアにあります。
VINI MENEGUZ SARA(ヴィーニ・メネグズ・サラ)

こちらのワイナリーは、ヴェネト州トレヴィーゾ県、Conegliano Valdobbiadeneエリアの中のTarzoという小さな村にあります。DOCGエリアの中でも最も北に位置するコムーネ(基礎自治体)で、すぐ後ろにはドロミーティに至る山が控えており、標高は300m超程ですがちょうどいい斜面に位置しているブドウ畑です。
地元の人の話では、昔はこのエリアはトウモロコシ畑がたくさんあったとのこと。確かに、ヴェネト州といえばポレンタ(トウモロコシの粉で作られたおかゆみたいなもの)が名物、家庭料理だとパンよりもポレンタを小さい頃はよく食べていたという人もいました。
それが、プロセッコがDOCGになった2009年前後から、どんどんブドウ畑に置き換わっていったそうです。
ここのオーナーのサラさんのお話では、この地ではずっとワイン醸造の歴史があり、20世紀の初めの彼女の先祖からずっと家族経営で手をかけたワイン造りを行っているということです。お父さん同様、サラさんもワインへの情熱がとても熱く深いのを感じられる、濃厚な訪問となりました。
畑を見学
ほどよい斜面に位置する畑

基本的にワイン用のブドウは、水分が多すぎるとあまり出来のいいワインには仕上がりません。だから、ワイン用のブドウを育てる土地としてはある程度斜面に位置して水はけがいいところが向いています。かといって、斜面がきつすぎると今度は剪定したり収穫したりといった畑作業がしにくくなるんですよね。
ここの畑は標高が325mのなだらかな丘陵地帯に位置し、なおかつ南東向きの恵まれた場所。さらに、朝と夜の気温差が10℃以上に開くこともあるそうで、ワイン特にプロセッコに欠かせないキリっとした爽やかな酸味を育てるのにとても理想的なところです。
ちなみに昔々は海だったエリアなので、時々その証拠となる化石が掘り出されることも…
この貝の化石は数年前に畑作業の途中で出土したんだそうです。

畝の場所によって数メートルの高さの差があります。

ブドウは正直、ちょっと変わった生き物で、辛い環境であればあるほど美味しくなります。水分たっぷりに甘やかされた環境だと美味しいワインにならないので、国によっては(確かフランスのブルゴーニュとか)わりと密度を高めにブドウの木を植えて、お互いに水分を奪い合うような感じの環境に整えたりします。
それに比べると、ここの畑は全体的にゆったりのびのびと植えられているのかな?という印象でした。これはもしかしたら、降水量が比較的少なめだったり、土地の性質などから導き出されたベストな植え方なのかもしれません。
あとは、作るブドウの品種にもよりそうですね。この土地で生み出されるプロセッコは、爽やかでフルーティーで軽い口当たりが特徴。飲みやすいカジュアルなワイン、というところが一番のポイントです。あまりに糖度を上げたり凝縮したブドウにしてしまうと、そういう造り方のワインにしてはちょっと飲み疲れしてしまうのかも…
土は主に粘土質

ここの畑は主に粘土質の土だそうです。そこに硫黄成分、鉄成分を多く含む種類の土、それから泥灰土で構成されているとのこと。
真ん中にあるこの瓶の中には、色々なハーブや草花などの種が入っています。なんのためかというと…

サラさんは、冬の間にこれらの種を畑の畝と畝の間にまいておくのだそうです。そうすると、生命力の強いハーブが土の中でしっかりと根を張って育ち、春が近づくと目が出て大きく成長します。これらの植物は光合成をして土の中にもしっかりと酸素を送り込んでくれるので、これをワイン用のブドウが取り込んで成長していくのだとか。
色々なワイナリーに行きましたが、初めて聞いたお話で、経験から来る知恵というか、興味深いお話だなーと思いました。

まだ本格的に畑作業が始まる前の時期で、暖かい日が増えてきたので、色々な野草が自由にのびのびと育っています。

こちらは看板犬のアリエルちゃん!暖かくなって虫や生き物も冬眠から覚めて動き出したので、彼女も毎日大忙し!一角に「アリエルの畑」と名付けられた場所があって、彼女はそこのパトロールと土の掘り返しを担当。
とはいえ訪問者の我々に対してもとても愛想がよく、熱烈に歓迎してくれました!お見送りも欠かさず、看板犬としてもすご腕です。

本格的な畑作業まではあと少し、まだ畑の様子は冬の装いですが、よく見ると間もなく芽が出て来そうな枝も。オーナーのサラさんがとても愛おしそうに「未来のプロセッコよ」と言っていたのが印象的でした。